縞衣の小説ブログ

縞衣(しまころも)の創作小説サイトです。4作品連載中。

夕雨と真辺(岩尾七海とSevenSea5)

「おっす岩尾」
 生徒玄関に向かい歩いていた夕雨は、背後から声をかけられ振り向いた。
「おはよ」
「お、何か今朝はご機嫌?」
「別に」
 夕雨は短く答えたが、中学からの友人・真辺(まなべ)はニヤリと笑う。


「表情がいつもより柔らかいし」
「……昨夜、ドライブに行ったんだよ」
「ドライブ?誰と?」
「…七兄と」
 夕雨の呟きに、真辺は小首をかしげる
「それってもしかして、東京から帰って来たっていう?」
「うん」
「なんか、ずっと離れてたせいでどう接したらいいか分からないって言ってたよな」
 どう接していいか分からない理由はそれだけではないが、真辺にはその事だけしか伝えていない。


「どうしてドライブ行く事になったんだ?」
「せっかくの愛車を通勤にしか使わないのはもったいないからドライブに行くけど、一緒に行くかって誘われた」
「お兄さん、」
「七兄」
 訂正する夕雨にやはり首をかしげつつ、真辺はかがんで脱いだ靴を手に取る。
 それぞれ上履きを履くと、再び並んで歩き出した。


「お兄さんは、よくドライブ行くんだ?」
「七兄。さあ、どうかな。結構友達付き合いのある人だし、飲みに行って遅いのかドライブに行って遅いのか分からないから」
「ふーん、お兄さん友達多いんだ」
「お兄さんじゃなくて七兄だって。長く東京にいたから、今になってまとめて付き合いに行ってる感じ?」
「あのさ、さっきから何でそこにこだわってる訳?お兄さんだろ?」
「違う、七兄は七兄。愛称みたいなもんだから」


「ふーん。よく分からんけど、とにかく七兄さんな」
「それでいいよ。で、どこまで話したっけ?」
「ドライブに行ったってとこ」
「そう、ドライブに行ったんだよ。終わり」
「終わりじゃないだろ?嬉しかったとか楽しかったとか、何か感想があるだろ」
「…それ、親からも言われた。兄貴もウザいほどニヤニヤして聞いてきた」
「心配してるんだろ、うまくいってなかったから」
「分かってるけど、すごいガキ扱いされてるみたいでムカつく」
「そりゃ仕方ないだろ。一回り以上離れてるんだから」
「七兄なんてもうじき三十路だしな」


 二人は同じクラスだ。教室に入ると、真っ直ぐ夕雨の席に向かった。
 真辺は当然のように夕雨の前の席を拝借し、イスにどっかりと座る。
「そうだ、すごい腹立つこと思い出した。あのセクハラ親父、谷間を見せつけるんだよ!」
 夕雨も腰を下ろすと、そう言った。
「へー、筋肉ムキムキか。すごいな」
「すごいけどムカつくんだよ!」
「見せつけるって、すごい露出度の高い服でも着てる訳?シャツの前わざと開けて、胸も腹も丸出しとか?」
 真辺は冗談で言ったのだが、夕雨はムキになった。


「そんな訳ないだろ!もしそんな事したら、す巻きにしてやる!」
 なぜか耳まで真っ赤にして大声を上げる夕雨に、クラスメイトたちが何事だろうという顔を向ける。が、夕雨はまったく気づかずにぐっと拳を固めた。
「Vネックの襟から、チラチラ胸を見せてるんだよ!」
「うわエッロ」
「だろ?!だからやめろって言ったんだよ!それなのにあいつ、『おれのファッションに口出しするな』みたいなこと言うんだよ!」
「Vネックか。『男がそんな服着て露出する必要はない』って言う女もいるよな。男だっておしゃれぐらいするし、それくらい構わないだろって思うけど」
「そうだろ!いや、違う!七兄は露出なんてする必要はない!」
 ドン!と机を叩く夕雨に、真辺は軽く目を見開いた。


「ちょっと落ち着けよ。見られてるぞ」
「どうでもいいよそんな事!とにかく七兄はムカつく!無駄に背高くて細マッチョでイケメンで空手黒帯で美容師って、マジでカッコよすぎてムカつく!」
「お前、そんな駄々っ子みたいな事をよく大声で言えるな」
 真辺は半ば呆れた。が、それでも夕雨は気にしていない様子だ。基本的にマイペースなのだ。


「あああ、何で俺はあまり背が伸びないんだろうっ。口下手だからそっちでも負けるし、俺ってマジへなちょこだっ」
「おいおい、そこまで悲観する必要はないだろ?て言うか、ちょっと前までご機嫌だったのに、何でこんな話になってんの?」
「急に思い出したからだよ!せっかくちょっと歩み寄れた感じで嬉しかったのに!またドライブ連れて行ってくれるって…あの車キレーでカッコいいし、七兄にほんと似合ってるんだよなっ。運転してる時もすごいカッコよくてさ!」
「それ、途中から兄さん自慢になってるぜ」
「兄さんじゃなくて七兄だって!」
「分かった分かった。て言うか、お前がそこにこだわる理由がよく分からん…」
「真辺は分からなくていいんだよ!」


「ふーん、あっそ。まあとにかく、もうちょっと落ち着け。お前さっきから、かなり驚いた目で見られてるからな」
「いいよ別に…!て言うか、あんなカッコで酒盛りとか行って、スケベなやつにベタベタ触られたりしたらどうするんだよ!強いからって危機感なさすぎだろ!」
「酒盛り…」
「酒には強いらしいけど、変な薬とか盛られたら終わりだろ?!大人の癖に、そんな事にも気づかないのかってーの!弟の俺から見てもエッロいんだから、もっと気を付けろよな!」
「――それ、七兄さんに直接言った方がいいんじゃないかね」
「言ったよ!もちろん!」
「あ、そしたら『うるさい』って言われたんだっけ」
「そうは言われてない!そんな突き放した言い方しないし!」
 ぷんぷんという形容がまるっきり当てはまる夕雨は、ぷうっと頬を膨らます。


「これじゃあガキ扱いされても仕方なくないか?岩尾夕雨君」
 真辺が膨らみをつつくと、夕雨はジロッと目を動かした。
「要するに、七兄さんとの関係はかなり良くなったんだな?良かったじゃん」
「……まあね」
「変に気を遣うより、こういうお前をどんどん見せていけばいいさ。離れてた時間は取り戻せなくても、これから一緒にいればいいだろ?」
「――真辺って、時々すっごい悔しくなるほどカッコいいこと言うよね」
「おー、そりゃ嬉しい褒め言葉だな。サンキュー」
「…ここでもガキ扱いかよ」
 ボソリと呟いた夕雨の言葉に、真辺は盛大に吹き出した。

 

4.5 留守中

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