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縞衣の小説ブログ

縞衣(しまころも)の創作小説サイトです。3作品連載中。

2000hit御礼 新シリーズを開始します!

こんにちは、縞衣です。

超スローペース更新な当ブログですが、読者様方に支えられ、めでたく2000hitを迎える事ができました。ありがとうございます!

 

という訳で、御礼記念に新シリーズ『岩尾七海とSevenSea』を開始します。

カット専門美容室『SEVEN SEA』を営む主人公・七海(ななみ)のお話です。

 

この作品は、実はもう十年以上も前から構想を練っていました。

当初の設定からはだいぶ変わった部分もあります。最初は美容師じゃなかったし、ここまでカッコいいはずでもなかった(笑)。壁にぶつかって書く事ができなかったりもしましたが、今の七海が一番しっくりくる七海です。

私は美容師の仕事を知らないので自分が目にした範囲、想像できる範囲での執筆です。現実とは違うよ、という部分があるかも分かりませんが、フィクションですし、それでもいいやと大雑把に書いていますのでご了承ください。所謂『お仕事小説』とは少し違うかと思います。そこまで念入りな取材とかはしていませんので。

 

こちらもやはり不定期更新ですが、近日中に第一話をアップする予定です。よろしくお願いします!

 

 

4.続 衝撃(葉蘭万丈!)

「お前は家を出ろ」
 再度俺の頬を叩いた親父は、先程とは逆の耳に顔を近づけそう言った。
「酷い雨で連中も参ってる。用事で出かけるフリをして駅まで行け。できるだけ遠くまで行って、警察に逃げ込むんだ。親の事を聞かれたら、いないと言え」
「なっ…」
「俺は、お前の親父じゃない」
「はっ…?」


 突然の事に、俺の頭はついていかない。親父じゃないとは、どういう意味だ。親父が、ついに俺を捨てるという意味なのか……?
 違う。俺はすぐに打ち消した。俺が捨てられるんじゃない。親父は、俺に親父を捨てろと言っているのだ。
「そんな事」
「いいから黙って行って来い!」
 親父は怒鳴って、俺の鳩尾に一発入れた。完全に無防備な状態での一撃に、息ができなくなる。
 うずくまった俺の耳元で、親父は続ける。
「お前は俺の子じゃない。お前は、俺の……弟だ」


 弟。
 知っているけれど耳馴れない言葉に、俺は全てが止まった気がした。
 呼吸も、時間も。心臓の音だけが、やけに大きく全身に響く。
「俺はいつの間にか親父の保証人にされていた。親父の借金を払うハメになって、ほとんど寝る暇もなく働きに出てる間に、嫁に子どもができた。それがお前だ。俺はお前の親父じゃない。お前は……俺が世界一憎んだ男の息子だ。俺と同じでな」


 ――世界一憎んだ男の息子。
 その言葉は、重石みたいにドスンと俺の心に圧し掛かった。
 息を吸おうとして、苦しくて涙が出る。そうだ、苦しいんだ。鳩尾への一発が効いて……。
 ヒュウヒュウと息を吸って、吐いて…顔が、涙でぐしゃぐしゃになる。何でこんなに苦しいんだ。親父は俺を、憎んでいるのか……?憎い男の子どもだから、親父は自分の事も俺の事も愛せなかったんじゃないのか。
 親父は、俺を……。


 母親が出て行った時、俺は一度だけ泣いた。
 以来、悲しくてないた事はない。人生において、あれほど悲しい事はもう二度とないのではないかとさえ思っていた。
 でも、違った。今日は、人生で一番悲しい。母親が自分を捨てて出ていった時よりも、さらに大きな力で悲しみが俺を支配しようとする。


「葉蘭!」
 強く名前を呼ばれて、頬を両手でバシリと挟まれた。乱暴だけれど、真っ直ぐに合った瞳が、先ほど生まれた疑念を一瞬にして吹き飛ばす。
 俺は、親父に愛されていないんじゃない。
 ずっと、知っていた。親父は、俺を愛していると。
 だからこそ、俺だって親父を愛せたんだ。


「早く出て行け…。俺は多分、もう長くない。どこが悪いのかは知らないが、自分の寿命が尽きかけてる事ぐらい分かる。散々無茶ばかりやってきたんだから当然だ。だが俺が死んだら、次はお前の番になる。あの野郎、もう何年もお前の事をスケベな目で眺めやがってっ…!」
 親父の指に力がこもり、爪が食い込む。痛いけれど痛くない。俺は親父の両腕に手を伸ばした。
「葉蘭」
「大っ嫌いだ。親父のそういうとこ」
「なっ」
 俺は素早く親父の腕から右手を離し、親父の首筋に手刀を入れた。

3.衝撃(葉蘭万丈!)

 今日も雨が酷くて、工事が中止になった。
 おかげで、思いがけず休みができた。秋の長雨に助けられている。
 俺は朝から機嫌良く買い物に出かけた。雨が酷くても、お構いなし。長靴を履いて傘を差して、雨が傘を打つ音をBGMに、近くのスーパーへ向かった。


 高い食材は買えないが、書籍コーナーで立ち読みしたところによると、比較的安く買える食材――例えば玉ねぎとか人参とかジャガイモ、納豆など――それらをバランス良く食べる事は健康にいいようなので、俺はさらに気を良くして買い物を済ませ、家に向かった。
 相変わらず雨は酷い。でも、気持ちは全然憂鬱じゃなかった。
 家に着くまでは。


「ただいま」
 返事はなくシンとしている。起きていれば「早く飯を食わせろ」だの言ってくるのが親父だ。雨の時には不思議と眠くなるし、きっと寝ているのだろう。
 俺は服を脱ぐと、あらかじめ玄関に用意しておいたバケツにそれらを放り込んだ。廊下にポタポタ雫を垂らすより、この方がいい。
  やはり用意しておいたタオルで髪と体をサッと拭き、それを首からかけたまま買った物を持って居間へ向かう。バケツを片付けるのは後回しだ。


「親父、帰ったぞ」
 声をかけるが、返事はない。やっぱり眠っているようだ。
 しかし布団が空なのを見た時、背中を冷たい何かが走ったような気がした。なぜだろう、変な胸騒ぎを感じる。
 きっとトイレにでも入っているのだと言い聞かせながら、袋をドサッと床に置いて急いで向かう。ノックもせずに開けたそこに、やはり親父はいない。
「親父?!」
 まさか家にいないのか、と思った時、ガタンと物音がした。――風呂場からだ。
 慌てて駆け寄り戸を開けると、親父はちょうど服を頭からかぶったところだった。

 
 その背中に、俺は痣を見つけた。一つ二つではない、無数の痣…。
 見た瞬間、俺はカッとなった。
「何だよそれ」
「それって何だ」
 分かっているだろうに、親父は何でもない事のようにそう言った。当たり前に服を着て、くるりと俺の方を向く。


「何だって、痣の事に決まってんだろ」
「痣は痣だ。俺がお前にしていたように、俺も暴力を受けてんだ。ただそれだけだろうが」
「ただそれだけ……だと…?」
 絞り出したような声に、俺は自分でも驚いた。それは親父も同じだったようで、元々小さくはない両目をいつもより大きくさせて、俺を見つめている。


「怒ってるのか…?」
 親父の質問に、俺はブチ切れそうになるのをどうにか堪える。何も言わない俺に、親父は俺の怒りの大きさを理解したようだ。
「今に始まった事じゃない。今さら怒る必要はない」
「何…?」
「お前だって、薄々気づいてただろうが。俺が、ただこき使われてただけじゃねぇって事ぐらい」


 確かにそうだ。俺だって、疑った。親父が俺に暴力を振るうのは、自分が同じ事をされているからかもしれないと。
 だが思い出す限り、親父がひどい怪我で帰ってきた事はない。お客の相手をさせる為に、あまり酷い事はしないでいるのだと思っていたが…考えてみれば、親父はもうホストではない。
 自分の仕事でいっぱいいっぱいでそこまで考えている余裕はなかったが、もしかすると、自分がいない間に散々な事をされていたのでは…?


 一度生まれた疑念は、一瞬にして俺の中を駆け巡る。
「まさか…」
 俺は最悪の想像をして、親父の両肩を掴む。
「まさか親父」
「やめろ葉蘭。俺を惨めにさせたい訳じゃないなら、それ以上言うな」
 俺の最悪の想像は、その言葉によって肯定された。


 言葉を失った俺の腕は、ガクリと力を落として親父の肩から滑り落ちる。
 そんな俺の頬をビシャリと叩いて、親父は俺の髪を引っ張りながら耳に顔を近づけた。
 見た目には、ただの暴力に見えるだろう。
 だが俺の耳に届いた言葉は、全く違った。


「お前を同じ目には遭わせない」


 盗聴器にも拾えないほど小さな声で、しかし今までに聞いた親父のどんな言葉よりも、力強く俺に響いた。

 

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久しぶりの更新です。

ここから一時、葉蘭にとってきついシーンが続きます。(泣きながら書いていたところも…。)

次回もあまり間をおかずに更新できたらと思っています。

ものすごくスローペースですが、気長にお付き合い頂けましたら幸いです。

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2.俺と親父《後》

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