料理は好き、でも一人は少し寂しい (桜田桜の日常7)
「サクラ、お待たせ~」
花岡達が、着替えを済ませて部室から出てきた。
「で、どうしたの?」
ガッシリと桜の肩に腕を回し問う花岡に、桜はカバンから取り出した入部希望書を見せる。
「ほら、部長から貰ってきた。入部していいってさ」
「えっ、マジで?!兼部でもいいって?!」
「うん。ただ、『調理実習の時に飛び入り参加しても食べる分はないぞ~』だって」
「どういう事?」
実習は毎週水曜日だ。
翌日の木曜日に反省をして、金曜日までに実習の様子をブログにアップする。
週が明け、月曜日には実習で作るものをみんなで相談して決め、火曜日は買い出しと料理手順の予習。
毎回、この流れで進んでいく。
一方、花岡が所属しているバスケ部は、バレー部と交代で体育館を使用している為、火・木が体育館での練習、月・水・金は、グラウンドで体力づくりの持久走だ。
持久走は雨が降るとできないので、その場合は休み。
花岡は、こういう時に料研に出るつもりだろう。
「毎週水曜日は実習なんだよ。でも、その時になって雨だからって実習に参加しても、食べる分はないよって事。実習の費用は、掛かった分をみんなで割り勘してるから、もし参加できそうな場合は、あらかじめ費用を払っておいてほしいって」
「あ、そういう事か。そりゃそうだよな、分かった」
頷いた花岡は、「しかしお前、それだけの為に待ってたのかよ?」と、桜の顔を覗き込む。
「明日にしようと思ってたけど、ちょうど部活終わる頃かもって思ったから。体育館来てみたら、やっぱりそうだったし」
「ふうん、そっか。サンキューな。可愛いサクラちゃん」
「誰が可愛いだっ」
桜のクラスメイト達は、『可愛い』と言うと桜が照れて怒り出すので、すっかり面白がって何かと『可愛い』と口にする。
そもそも、最初に『可愛い』と言い始めたのは女子だった。一人が『名前可愛いね!』とうっかり口にしたのを皮切りに、ひそかに『女の子の名前みたい』と思いつつ桜に気を遣って黙っていた子達も、一緒になって盛り上がってしまったのだ。
桜にしてみれば、いい迷惑である。
しかし、家に帰ると慣れない一人暮らしで少し寂しいので、こうやって学校でワイワイできるのは、ストレス発散になっている事も確か。
言われる度に照れるからますますからかわれるのだという事はもちろん桜も分かっているが…だからそっけなくするという事もできない桜は、やはり可愛いDKなのだ。
「サクラ、これから家で夕飯作るの?」
「そうだよ。何で?」
「いや、毎日大変だろうなって思ってさ」
「まあね。でも、やってみて分かったけど俺って料理好きだ。気分転換になっていいよ」
「ふうん。じゃ、俺ら帰りにどっか寄って飯食おうって話になったけど、サクラはパス?」
「いや、行く」
即答した桜に、みんな驚いた。
「サクラ、節約してるんじゃなかったのか?」
「大丈夫、今日の一回くらい。せっかくだし行く」
「よし、じゃあ決まり!」
料理は楽しいけれど、一人で食べるのはやっぱりまだ慣れない桜は、みんなと食事に行ける事がとても嬉しくて、わくわくした。