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縞衣の小説ブログ

縞衣(しまころも)の創作小説サイトです。3作品連載中。

晴夏の心 (桜田桜の日常12)

桜田桜の日常

 一方晴夏は、桜と別れた後、ドキドキが止まらずにいた。

 

(ああっ…!どうしよう、まさか彼から手を繋いでくれるなんて…!)

 自分からはさんざんアピールしたし、それは平気なのだ。

 ドキドキはするけれど、赤くなったり照れたり恥ずかしがったりする桜の反応が可愛くて、胸がきゅうんとなりまた構いたくなってしまう。

 

 しかしまさか、あんなに恥ずかしがり屋の彼の方から、あんな風に手を繋いでくれるとは思ってもいなかった!

 急いでいたからとっさにとは言え…絶対に断られると思っていたのに付き合う事も了承してくれたし、いい事も重なる時には重なるものなのか。

 こういう風に重なるのは、大抵悪い事だと思っていた。

 

(あっ…。でももしかしたら、私のファンだって言ってくれる子達から苛められたりして…!バカな男達が何かする事だって有り得る!)

 

 晴夏は知っていた。

 世の中、いい人ばかりではない。

 これまで、電車に乗れば痴漢に遭い、遊びに出かければナンパされ、時には数人がかりで連れて行こうとされたり、襲われそうになった事だってあった。

 

 幸い、晴夏の家は兄姉が多く、特に年の近い兄達とは小さい頃から取っ組み合いのケンカも日常茶飯事で、腕っぷしはかなり鍛えられた。

 兄の中には、空手の段位持ちもいるし、柔道の黒帯もいる。晴夏が大きくなるにつれ、身を守る為に必要だろうと彼らから強制的に指導を受けさせられたので、身を守る術は持っている。

 おかげで、痴漢は見事に撃退、ナンパ男を泣かせ、数人がかりで襲おうとした男達は警察に突き出した。兄達には、本当に感謝している。

 

 だが、世の中にはもっと悪い人間もいる。

 自分が知っている世界は、本当に小さな、この広い世界のごくごく一部だという事を、晴夏は理解していた。

 だから、もっと悪い男に…例えば薬を盛られたりした場合、それでも自分の身を守れるという自信はない。

 今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫、と思う程、晴夏は世間知らずでも子どもでもなかった。

 

 だからこそ、桜の事も心配になる。

 彼は今までにそういう経験がなかったのだろうか…ガードが緩いように見えて仕方がない。

 それが見ていて危なっかしくて、晴夏はますます、桜にちょっかいをかけるのだ。

 もっと警戒心を持った方がいいと、忠告したい気持ちもあるから。

 自分は男の子だから大丈夫だなんて思っているのかもしれないけれど、決してそんな事はない。

 統計によれば、男性でもなかなか高い割合で痴漢に遭った事があるし、自分は男性だからという気持ちから、変な目で見られるのではないかと声を上げる事もできず、怖くて動けなかった人もいたという。

 

 桜は中性的で、大きな目とふっくらした唇が可愛らしい。細身で色白、腕を見る限り体毛も濃くないようだ。ヒップも魅力的で…要するに、彼は女性だけでなく男性からもモテる要素をたくさん持っているのだ。

(それなのに自覚がないんだもんな)

 教室近くまできて、晴夏はほうっと息を吐き立ち止まった。

 

(浮かれてたけど…桜に何かあったら大変だ)

 

 桜は気が強い。

 先輩の自分にも平気で言い返してくる。

 だが、おそらく恋愛には疎く、強く迫られた場合、対応しきれない事も考えられる。

 心配なのは、数人で迫られた場合だ。

 晴夏自身そういう経験があるから、一度考え始めると、ずるずるとループのように不安が繋がっていく。

 

(でもどうしよう。いつも私が一緒にいられるわけじゃないし、何より桜の目標は『早く自立する事』だ。私がでしゃばるのも良くない。桜が自分で対応できるようにならないと…)

 

 晴夏は、廊下の壁によりかかり、腕を組む。

 ちょうど階段下の角のところで、近い教室から先生の声が聞こえてくる。

 指名されて、生徒が立ち上がる音も。

 

 しかしそれらは、晴夏を教室へとは向かわせなかった。

 それよりも、対策を考える事が先決。

 桜がいれば怒り出しそうだが、晴夏は決して不真面目なわけではなく、ただ彼の事で頭がいっぱいになっていた。

 

(桜のプライドを傷つけず、彼を守る方法は…)

 

 そこでふと、ある事に気がついた。

(そうだ。来週は連休じゃないか!)

 新学期が始まって、およそ一ヶ月。

 大型連休の、ゴールデンウィークが待っている。

 

(よし!桜を家に誘って、兄貴達に鍛えてもらおう!)

 兄達に鍛えてもらうならば桜のプライドも傷つかないだろうし、安心できる。

 何より、彼を家に誘うチャンスだ。

 鍛えてもらった後は、たくさん用意した料理を振る舞って、自慢のデザートもご馳走して。

 うまくいけば、家にだって泊まってもらえるかも。

 

 晴夏は桜の私服姿や、家族と一緒においしそうにご飯を食べる姿を想像して、胸を躍らせた。

(そうと決まったら、さっそく桜に伝えなきゃ!)

 

 晴夏はくるりとスカートをひるがえらせ、うきうきしながら教室へと向かったのだった。

 

13.ケンカと仲直りと…

11.大変な一日の始まり

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