いざ、ランチへ(桜田桜の日常15)
「桜、お待たせ!」
四時間目が終わると、晴夏がやって来た。
その手には、チェックのハンカチに包まれたお弁当。
「なんだ桜田、彼女のお迎えか」
生徒から質問を受けてまだ教室に残っていた若い数学教師が、冷やかすように桜を見た。
「お前、モテるな」
黒縁眼鏡をくいっと指で上げ、ニヤリと笑う。
「あまり事件は起こさないでくれな。あと、高校生らしいお付き合いで頼むぞ」
「事件って何ですか?」
桜は意味が分からなかったが、「葛に聞け」と短く言って、先生は片手を挙げて出て行った。
「先輩。事件って何ですか?」
「それは後で話そうか。それより早くランチにしよう!」
うきうきした様子の晴夏に、桜は赤くなった。
実を言うと、さっきからずっと緊張している。
晴夏とお昼の約束をした時は、花岡の思い出話に興奮するクラスメイトの視線や熱気に包まれ、桜自身もなんだか興奮状態にあった。
だから彼女の「ランチを一緒に」という申し出にも夢見心地で了承してしまったが、二人きりで食事をするのだと改めて思うと、そわそわしてしまうくらい恥ずかしい。
だから気を紛らわす為に質問してみたりしたけれど、大して効果はなかったようだ。
授業が終わってすぐにカバンから取り出した弁当は、すでに机の上に置いてあるのに、なかなかそれを手に取れずもじもじする桜の背中を、花岡がバシンと叩いた。
「頑張れ、男の子」
「な、何をだよ!」
「何って、そんなもじもじしてたら女の子みたいだからさ。サクラって女の子の中で育った男なんだろ?やっぱどっかソフトだよな」
「う、うるさい!それに一番上は兄さんだ!」
「え、兄貴もいんの?」
意外、とクラスメイト達の顔に書かれていて、桜は勢いよく弁当を掴んだ。
「行ってきます!」
「おお、行ってこい」
晴夏の待つ入口へ行き、廊下に出る。
桜の席は廊下側から二列目だから、そこまではすぐだ。
それなのになかなか一歩を踏み出せなかった事が、桜は恥ずかしかった。
ああやって頑張れと背中を押してくれた花岡達に感謝しつつ、桜は晴夏を少しだけ見上げた。
「お、お待たせしましたっ」
「ううん、全然待ってないよ。行こっか」
クスッと笑い声をこぼしやわらかく微笑む晴夏は、王子様と言うよりは優しいお姉さんだった。
(こんな顔もするんだ…)
今まで彼女のカッコいい面ばかり見ていたけれど、桜は新たな一面を発見した気持ちがして、照れくさくもあったが嬉しかった。
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今回は短くなってしまいました。
進展が遅く申し訳ありません。
私の中の晴夏と桜はすでにゴールインし子どもにも恵まれファミリーとなっているせいか、逆にこの辺りのお話は少し書きづらい…という状態になってしまっています。
晴夏が桜に告白する辺りは絶好調だった気がするのですが。
主人公の桜よりも晴夏の方がイキイキしていますね。