縞衣の小説ブログ

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彼氏の浮気?(桜田桜の日常番外編)

「明治(めいじ)が浮気してるみたいなの」

「花岡君が?」

 

 ある日の昼休み、お弁当を食べながら切り出した南(みなみ)の言葉に、友人の奈都(なつ)は首を傾げた。

 

「どうしてそう思うの?」

「だって、これ見てよ!」

 南は、ポケットからスマホを取り出し、ある画像を奈都に見せる。

「ハグしてるのよあいつ!こんなカワイイ子と…許せない!」

 南はそう言って左手を握りしめる。それを視界にチラリと入れて、奈都は言った。

 

「どうしたのこれ」

「あいつが待ち受けにしてたのよ!私、いつもはケータイ見るなんてしないけど、この間たまたま、あいつがトイレに立った時にケータイが鳴って…見たら、こんなのを待ち受けにしてたのよ!あまりに腹が立って、思わず撮っちゃったわ!」

「あー、それでちょっと画像悪いのね。しかしこれ、友達じゃない?まさか、浮気相手との写真を、堂々と待ち受けにはしないでしょ」

「そんなの分からないじゃない!私よりこの子が好きだから、もう私を振るつもりで、もしかしたらわざと私に見せたのかも!」

 

「それは考え過ぎじゃない?花岡君は、そんなややこしい事しないと思う」

「この女の入れ知恵なのよ!あいつ、私の事だって滅多に抱きしめたりしない癖に、こんなにいい顔でハグなんかしちゃって…!」

「それは、あんたが鬱陶しそうな反応するからでしょ。素直に喜べばいいのに」

 そう言って、奈都はじっと画面に顔を近づける。

 

「うーん、確かにカワイイけど…。これ、女の子か…?」

「女の子よ!色白だし、目だって大きいし、唇もふっくら!どうせ私は、顔もスタイルも並みですよぅだ!」

 

「でもこれ、コラージュアプリでかなりいじってるから、美白加工してあるでしょ。キラキラしすぎててよく分からないけど…なんか、男の子のような…」

「こんなにカワイイくせに男だなんて許さないわ!私よりカワイイじゃない!」

「南はじゅうぶんカワイイよ。それにこれ、かなりいじってあるから実際に会ってみたら意外とそこまでカワイくないかも」

「そんなわけないわ!だって明治を見てよ、この写真より本物の方がずっとカッコいいじゃない!きっとこの子だって、本物はもっとカワイイに決まってるわ!」

 キーキー声を上げる南に、奈都は溜息をついた。

 

「仮に浮気だとして、問題はあんたにもあると思うよ南。花岡君の前では、年上だからて変にカッコつけて、今みたいに素直に気持ちを伝える事ないじゃない。伝えたい事は、伝えないと伝わらないよ?」

「そんな、伝えるばかり連呼しないでよ!できたらこんなに苦労してないもの!」

「それはそうかもだけど。南は、もっと自分に自信持ったらいいと思うよ。こんなこと言ったら変に思われないか、とか、あまり考えないで。それに、そんなに不安なら、ちゃんと花岡君に聞いた方がいいよ」

「それは…分かってるの。ちゃんと聞いた方がいいって。でも…それで、振られちゃったらどうしようって!」

 

 瞳をうるうるさせ、今にも泣き出しそうな南に、奈都は思う。

(こういうところを彼に見せれば万事解決なんだって。この意地っ張り娘め)

 

「よし南。それじゃあ今日の放課後、一緒に花岡君に会いに行こう!で、会って確認しよう!」

「え…でも…」

「でもじゃない!学校まで行けば、もしかしたらこの写真の子にも会えるかもだし!」

「うん…ありがと」

「よしよし、だから泣かないの。泣くなら、花岡君と二人の時にしなね」

「そんなの無理よ!恥ずかしいもの、泣き顔なんて見られるの」

 

 ぽろ、と零れた涙を指で拭う南は、奈都から見てもじゅうぶん可愛い。

(もっと自信持てばいいのに。告白だって、花岡君からしてくれたんだから)

 

   ☆

 

「ああ、どうしよう来ちゃった」

 放課後、花岡の通う高校の前で、南は情けない声を出した。

「何よ南。いつもの勇ましさはどうしたの」

「だって…。こんなところまで来ちゃって、あいつ怒るかも」

「怒らないよ。今まで、彼が南に怒った事ってないじゃない」

「そうだけど…。だからこそ不安なんじゃない、キレられたらどうしようって」

 

 なかなか南の決心がつかず、校門前をうろうろしていると、数人の生徒がこちらに近づいて来た。どこかに出かけていたようだが、手にはエコバックらしきものを持っている。

「買い出し?」

「みたいだね。何部だろ?」

 

 近づいてくる生徒達は不思議そうな顔で、何やら話している。

 と思ったら、一人が足早に近づいてきた。

「どうしたんですか?」

 細身で色白な、なかなかイケメンな男子生徒だ。

 

(なんかこの子、見覚えが…)

 思った奈都は、すぐに写真の子だと思い当たる。

「南、この子…」

「あの、人を待ってるんですけど。バスケ部の花岡明治なんですが…」

 奈都と南の声が重なり、男子生徒は、大きな目をパチリと瞬かせてわずかに首を傾げる。

 

「花岡は、俺の友人です。呼んで来ましょうか?」

「え、いいんですか?」

「はい。あの、ところで…こんなこと聞いたら失礼かもしれませんが、もしかして彼女さんですか?」

「あ…はい」

「やっぱり!制服見て、もしかしたらと思ったんです」

 

 南たちは、県内でも有名な進学校に通っている。制服も、この辺りでは珍しい赤系のチェックのスカートだから、一目でどこの学校か分かったのだろう。

 

「あいつ、彼女さんのこと自慢してましたよ。めっちゃ頭いいんだって、嬉しそうに」

「え…あいつが?」

「はい。待ってて下さいね、今呼んで来ます」

 

 彼がそう言って走って行った後、奈都は南に言った。

「今の子、あの写真の子だったよ」

「えっ…?!ほんとに?!」

「やっぱり男の子だった。それに、感じよくていい子だったじゃない?」

「うん…」

 

 頷いた南は、不安そうな顔で言った。

「明治、男の子でも好きになっちゃわないかな…。あんないい子…。イケメンだったし、やっぱりちょっとカワイかったし…」

「あんたは、どう転んでも心配は尽きないわけね…」

 半ば呆れた奈都だった。

 

  ☆

 

「あれ?なんで南がこの写真持ってんだ?ま、いいけど…どした?」

 ジャージ姿でやって来た花岡は、南が差し出したスマホを見て不思議そうな顔をした。

 

「あ、もしかして写メしなかったからへそ曲げてるとか…」

「違うわよ!誰なのよこのカワイイ子は?!」

「誰って、サクラだよ。あ、サクラってこいつな」

 

 花岡はそう言って、少し後ろにいた彼の腕をぐいと引いた。

「紹介するよ、友達の桜田桜。で、こっちは彼女の砂原(さはら)南」

 お互いに会釈するが、南は先程よりも硬い表情になっている事に、自分でも気がついていた。

 

「花岡、写真って?」

 サクラと呼ばれた彼は、どうも写真が問題らしいと思ったらしく、花岡の手のスマホを覗き込み、「なんだコレ…」と低い声を出した。

 

「あ、いや…この間、女子が撮ったやつをくれたんだ」

「この間って、もしかしてあの時の」

「そうそれ」

「俺はもらってないけど」

「それはまあ、サクラちゃんは多分嫌がるから…」

 

「当たり前だろ!なんだよこのキラキラ!」

「これは、女子が『サクラ君お姫様バージョーン!』って…」

「誰がお姫様だ!」

「痛っ…!」

 

 ガスッと踵で足を蹴られ、花岡は体を折る。

「俺はもう部活に戻るからな!」

 

 ぷんぷんという形容がぴったりな様子で戻っていく彼の背中を見つめながら、奈都は南に言った。

 

「良かったね、ただの友達で」

「もしかして、それを確認しに来たのか?」

「そうなのよ。南ね、この間たまたま花岡君のケータイの待ち受け見っちゃったんだって。それで不安になっちゃって…」

「ちょっと奈都!」

 

 南は慌てて奈都の言葉を遮ろうするが、奈都は構わず続ける。

「花岡君のこと好き過ぎて、男の子を女の子と勘違いするわ、振られるかもって落ち込むわ。だから花岡君、南のこと、なぐさめてあげてね」

「…分かりました。すみません、こんなところまで一緒に来てくれてありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる花岡に、奈都はひらひらと手を振って見せた。

 

「いいのいいの。私もちょっと、あの子の実物見てみたかったし。デコってるせいで、ちょっと性別わかりにくかったね」

「女の子に見えました?サクラ、可愛いでしょ?あれでも、めっちゃ美人な彼女いるんですけどね」

「へえ、そうなの!だってさ南、良かったね!」

「あの子が…美人な彼女と?」

 

 少し意外で首を傾げる南に、花岡は言った。

「そうそう。めっちゃ美人で、カッコいい彼女がね。もうすごいお似合いなんだよ」

 

 笑顔で話す花岡に、南はほっとしてようやく表情が緩む。

「あのさ、南。南は、確かに基本普通だけど、笑顔はすごくいいと思うよ」

「えっ…?」

「だからさ、いつも笑ってろよ。俺の前では」

「なななな、何言ってるのよっ」

 

 真っ赤な顔で大慌てする南の耳に、花岡はすっと顔を近づけた。

 あと少しで唇が触れそうな距離で、「サクラの彼女から教わったんだ。好きな子には、積極的になれってさ」と、ささやくように言われ、南は「バカッ!」と花岡の胸をたたく。

 

「南、俺がサクラとハグしてるからヤキモチやいたんだろ?そういうとこ、可愛くて好きだぜ俺。近くにショッピングモールあるから、適当にぶらついててよ。せっかくだから一緒に帰ろう、三人で」

「う、うん…」

「じゃ」

 

 軽く手を上げて走っていく花岡を見て、奈都は言った。

「浮気の『う』の字も見当たらないほど、ラブラブなんですけど?」

 

 

 

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