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縞衣の小説ブログ

縞衣(しまころも)の創作小説サイトです。4作品連載中。

1.四人の高校生(岩尾七海とSevenSea)

「ありがとうございましたー」
 午後七時前。
 おそらく本日最後だろうお客さんを見送った岩尾七海(いわおななみ)は、床に散らばった髪の掃除に取り掛かった。


 ここは、カット専門美容室『SEVEN SEA』。七海が一人で切り盛りしている。
 中学生の頃から「将来は美容師になろう」と決めていた七海は、高校を卒業すると上京し、美容師専門学校に進んだ。
 美容室でアシスタントのアルバイトをしながら、無事に二年で学校を卒業。バイト先の美容室で今度は正式なスタイリストとして三年間働いた後、カット専門の美容室でやはり三年働いた。


 そして地元へ戻り美容室を開いたのが、およそ一年半前。
 以前は小さな雑貨店を営んでいたという、小奇麗な印象の物件を借り、カット専門の美容室を開いたのには理由がある。
 地方では、都会と比べてカット専門の美容室は少ない。が、自分の学生時代を振り返ってみても、おしゃれはしたいけど数千円のカット代は払えない、そんな人はたくさんいる。男子の中には、おしゃれな美容室に入る勇気がないという子も結構いた。


 だから七海は、いずれ自分のお店を持てたら、カット専門にしようと決めていた。
 メニューも至ってシンプルだ。大人1000円。子ども(中学生まで)800円。前髪カット500円。以上。
 ロングだろうとショートだろうと、価格は変わらない。前髪だけなら500円。これは大人も子どもも同じだ。カット専門だから、パーマやカラーはしないし、カット後のシャンプーもしない。だからシャンプー台はないし、座席数も二つだけだ。
 カットにかける時間は十分から二十分。早ければ五分で終わる。
 七海一人で切り盛りしている為、基本的には一人ずつしかカットしない。最近はお客さんの数も増えてきて、一時間に十人近くのカットをこなす事もある。


 今日は最後に男子高校生四人が来たから、二人ずつ並んで座ってもらいカットした。終わったら交代して、また二人ずつ並んで座りカット。四人終わっても来店してから三十分も経っていなくて、みんな口々に「すげぇ」と言っていた。
 四人は同じ学校で、髪が長いと注意を受け、仕方なくカットする事にしたらしい。確かに、来店時には太めの髪がモッサリなっている子や、前髪で目が隠れそうな子もいた。
 四人の内の一人は開店間もなくから通ってくれているお客さんで、その子が「俺の行ってる美容室、1000円だし十分ぐらいでカット終わるから今からみんなでパッと行くか?」と誘ってみたところ「1000円なら手持ちもあるし、また明日注意されるのも面倒だし仕方ない行くか」と話がまとまり、来店してくれたそうだ。
 お客さんが知り合いを連れて来てくれる事はたまにあるが、三人もの友人を一度に連れて来てくれたというのは初めてで、七海は驚きつつも嬉しかった。


 カット専門の美容室は、お客さんの数が多くないと経営していくのは難しい。だから知り合いの方を紹介して頂けるように、紹介制度を設けている。「ご紹介にてご来店頂いた場合、初回は半額です」と三人に告げたら、「えーっマジでーっ?!」と大喜びしてくれた。紹介してくれた柳原(やなぎはら)君にも同様に半額だと伝えると、「ほんとにいいの?七兄(ななにい)」と嬉しそうで、七海は「もちろん」と微笑んだ。
 正直、半額サービスは懐的には厳しい。が、これがきっかけで常連さんになってくれる場合も少なくないので、決して損はしていない。広告宣伝費を支払っていると思えばいいのだ。


「ん?」
 七海はふと、カウンターのそばに目をやった。何か小さな板状の物が落ちている。ベースは透明だけど模様がついていて…プラパン?と思いながら拾ってみると、どうやらキーホルダーのようだ。大きさは三センチくらいで、通し穴もあいている。金具が外れて落ちてしまったらしい。プラパンよりも上等そうだ。
 かわいい動物の絵が描かれたそれは、おそらく先程の高校生の誰かの物だろう。もしかすると落とした事に気づいて引き返してくるかもしれない。
 そう思い立ち上がった時、店の外で人の気配がした。
 間もなくベルの音と共にドアが開き、七海の予想通り、高校生達がにぎやかに戻ってきた。


「すみません、もしかしてここに――」
「キーホルダーの落とし物ですか?」
「そうです!ありました?!」
「ええ」
 これですか?と七海が掌にのせて見せたそれに、一人が「良かった!」とほっとした表情を浮かべた。
「ありがとうございました!」
「いいえ。それって、プラパンじゃないですよね?」
 手渡しながら疑問を口にすると、彼は満面の笑顔で答えてくれた。
「違うっすよ、これアクキーです!」
「アクキー?」
「そ、アクリルキーホルダー!俺の彼女が友達と同人活動してて、それで作ったオリジナルのキーホルダーで。ちゃんと印刷屋さんで作ってもらったんです。だからすっごい大事にしてて!」
「へー、すごいですね!」


「アクキーって、人気あるんですよ。一個ずつ作れるところもあるし、十個くらいまとめて作れば割引してもらえるし。俺の彼女はイベントで同じもの出して、これ以外は完売したって言ってたんで、失くしたと思った時はすごい慌てました。ありがとうございました!」
 ぺこっ、と頭を下げる彼に、七海も「いえ、すぐに気がつかなくてむしろ申し訳なかったです」と頭を下げる。
「そんな、とんでもないっすよ!」
 人懐っこく笑う彼に七海も笑顔を返す。
 少し離れて立っていた友人の一人が、「すげーイケメン」と漏らす声が聞こえた。七海がそちらに視線を向けると、目が合った。
 一瞬じっとこちらを見つめてすぐに目を逸らし、しかしまた視線を合わせてくるその子は、どうやら何かを聞きたいらしい。
 七海が先を促すように微笑むと、彼は少しためらってから、しかし思い切ったように口を開いた。


「あの、どうやったらそんなにカッコよくなれますか?」
「え?」
「いやあの、だってすっげーイケメンだし背高いし、細マッチョって感じするし…。俺、腹筋とかしてるけどなかなか割れなくて」
 そう言ってお腹に手を当てる彼を、七海は微笑ましく思った。
「おれ、物心ついた頃から高校までずっと、空手をやっていたんです。やめた後も筋トレだけは続けてるから、筋肉がついてるのはそのせいですね。あと、体質的にも割と筋肉つきやすいみたいで」
「体質とかやっぱ関係あるんだ…」
「それはありますよ。でも、筋肉増やせばいいというものでもないので、そこまで気にする必要もないと思いますけどね?」
「けど、背はもっと伸ばしたいし…。牛乳毎日飲んるけど、なかなか伸びなくて」
 そう言ってわずかにうつむく彼は、おそらく160ちょっとといったところだろう。確かに、男子としては大きくない。が、まだ高一なのだし、そこまで悲観する必要もないように思える。


「成長期はまだまだこれからですよ。おれは小学生の頃から背は高い方でしたけど、伸びたピークは高校生の時でした」
「親も同じこと言うんだけど…うち、親もそこまで高い方じゃないから心配で」
「うーん、確かに遺伝はありますね。うちは父親の血統が背高いから」
「いいなー…」
「でも、だからと言って必ずしも遺伝するとは限らないですよ?姉貴がいますけど、背はさほど高くないし」
「あの…ちなみに、身長何センチなんですか?」
「おれですか?178です」
「わっ、いいなー!」
 そう言った彼は、七海に憧れの眼差しを向けてきた。


 素直で可愛いと思う反面、ちょっぴり申し訳なさも覚えながら、七海はニッコリと微笑んだ。
「まあ、あまり気にしないで、しっかり食べて飲んで運動してよく寝るのが一番いいと思いますよ。気にし過ぎるとストレスになって逆効果だし」
「えっ、そうなんですか?!」
「そうそう。それと夜遅くまで起きてゲームとかするのは良くないかな」
「うっ」
 彼はゲーム好きなのだろう、痛いところを突かれたという顔をした。


「宿題とか先にやったら、ゲームするのは遅い時間になっちゃって…。でも少しはやりたいし」
「我慢し過ぎるのもストレスだろうから、時間を決めるとかどこまでやったらやめるとか、自分なりのルールを作ってみたらいいかもしれませんね」
「そうですね…。背は伸ばしたいんで、考えてみます。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。お話もできて楽しかったです」
「お話って言うか相談じゃん?七兄、無理して楽しかったとか言わなくても大丈夫だよ?」
 柳原君が気を遣ってくれるが、七海は本当に楽しかったので「無理してないよ」と彼の頭にぽんと手を置いた。


「七兄、俺もう高校生」
「知ってる。だいぶ背伸びたなーと思って」
「だろ?!俺、170あるから」
「自慢するなよー」
 さっきの子が面白くなさそうな声を出すと、柳原君は「違うって」と笑いながら言った。
「別に自慢じゃないし。そのうちお前の方が高くなるかもだろ?――じゃ七兄、また今度。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。またお待ちしてます」
「どーもー」
「ありがとうございました!」
「また来まーす」
 それぞれ挨拶した四人は、仲良く楽しそうに帰っていった。


「青春だなぁ」
 七海は一人呟いて、店の外の小さな看板を中に入れた。ドアに掛けられたプレートを『OPEN』から『CLOSE』に替えて施錠し、店の中がよく見える四角い窓のブラインドを下ろす。今日の営業は終了だ。

 

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連載第1回です。不定期更新ですが、よろしくお願いします!

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2.七海の課題

もくじ

 



 
 

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