かわいい璃々の悩み (短編連載第一回)
璃々(りり)は、かわいい。
道を歩けば男が振り向き、女性でさえライバル心を忘れ「あの子カワイイ!」と口にしてしまうほど、かわいい。
ただ見た目だけで言うならば、かわいい子はいくらでもいる。
璃々の場合、その身にまとう雰囲気までもがかわいく、見る者の心を惹きつけた。無条件にかわいいと思ってしまう、そんな不思議な魅力を持っているのだ。
そんな璃々には、大きなコンプレックスがあった。
それはずばり、かわいい事だ。
末っ子なせいもあり、家ではいつも大切にされた。
両親や祖父母だけでなく、兄や姉からも甘やかされた自覚はある。
学校では、真面目な生活態度だったせいもあり先生からもかわいがってもらった。男の子からはたくさん告白され、女の子からは頭を撫でられたり抱っこされたり、まるでマスコットのようだった。
はたから見れば、何の苦労もなく甘やかされてきたように見えるだろう。
そして実際、それは間違いではない。
甘やかされてきた事は、まぎれもない事実。
よく、「璃々はかわいいね」「あんたは悩みもなくていいね」なんて言われる。
その度に、璃々は「えへへ」と笑って見せるけれど、心の中ではこう思っていた。
(とんでもない!私だって悩みくらいあるのよ!みんなにかわいいって言われるから、私はいつもかわいい私でいなくちゃならない!それこそが大きな悩みだって、どうしてみんな分かってくれないのかしら!)
そう。璃々にとっては、「かわいい事」が悩みの種だった。
璃々がかわいいと言われてきたのは、外見だけによらなかった。
おっとりと優しい性格、仲間外しやイジメなどもちろんしない、誰に対しても丁寧な対応が「性格もよくて信頼できる」と評価されていたのだ。
しかし、周囲からのまるでパーフェクトであるかのような扱いは、璃々に大きな影を落とし始めていた。
かわいいと言われる事に、疲れてきた。
いつもかわいい自分でいる事が、苦痛になってきた。
みんなは自分に対してちやほやしてくれる、それが、まるで自分が生まれつき高尚な人間であるかのように錯覚させる。
璃々は、それが嫌で仕方がなかった。
人と人の信頼関係は、長所だけでなく欠点も知った上で築かれるべき。
それが持論の璃々にとって、自分の悪い事はいっさい口にせず、いい事ばかりを言ってちやほやしてくる周囲の人間を、信じる事ができないのだ。
いつしか璃々は、人間不信になっていた。
それは、高校を卒業し、社会人となった今も変わらない。