かわいい璃々の悩み (短編連載第二回)
「彼女、かわいいだけが取り柄よね」
ロッカールームで聞こえる、自分への悪口。
「かわいいってだけで男どもは鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって。仕事もできないのに」
「ほんとよ。まあ、あんなブサイクな男どもにモテても意味ないけどね~」
チラチラと璃々の方に視線を向けながら、キャハハハと笑い声を上げる同僚の女たち。
(ああ、くだらない。バカなのは自分たちだって同じじゃない。仕事ができない?確かにそうだけど、あなたたちと変わらないわよ)
璃々がそう思うのも無理はなかった。
璃々は、特に仕事ができないと言われるほど、仕事ができなくはなかった。
学校でも、優等生ではなかったかもしれないけれど、人並みより少し上くらいの学力はあった。スポーツだって、ちゃんとできた。
(人生って、うまくいかないものね。かわいいってもてはやされてばかりの時も腹が立ったけど、ああやって自分たちの事を棚に上げて陰口ばかり叩かれるのも腹が立つ。人間って勝手だわ)
璃々は、自分自身にも半ば呆れていた。
人を信用できないせいか、自分の事も冷めた目で見る癖がついてしまった璃々は、しかし外面だけは習慣みたいなものでよくしてしまう。
だから誰も、自分の中の闇に気がつかない。
きっと、優しくしてくれる恋人も…。
こんな調子だからうまくなんていくはずがなく、もう何人もの彼と別れた。
告白はされるから、すぐにまた他の男性と付き合う。
肉体関係は持っていない。そこまで進展する前に、別れてしまうのだ。
誰とでも寝る尻軽女だとは思われたくないし、それ以前に、恐怖心が先立ってしまって無理だった。
だが周囲はそう思っておらず、陰口をたたく女たちは、『いろんな男をとっかえひっかえ』『誰とでも関係を持つ』と、何も知らないくせにデタラメを言う。まるで実際に見たかのように、ありもしない作り話を意気込んで話す者さえいる。
あまりに虚しくて、「この現実は本当に現実なの?実はバーチャルの世界なんじゃないの?」とまで思ってしまう。
そんな日々が楽しいはずもなく、どんどん投げやりになっていく自分を感じ、また自己嫌悪に陥る悪循環。
早く抜け出したいけれど、どうすればいいのか分からなかった。