ミートボール(桜田桜の日常2)
「お前の弁当、美味そうだな」
桜(さく)の弁当をのぞいて、深山(みやま)がそう言った。
「そうか?」
料理を始めて、まだ一ヶ月。
お世辞にも、上手いとは言えないと思うのだが。
「そのミートボールくれ」
「いいけど、昨日の残り物だぞ」
スーパーで買った鶏肉で作ったものだ。
鶏だからあっさりしているし、DKの口に合うかどうか。
「美味い」
食べた深山は、意外にも満足そうだった。
「これ、普通のミートボールと違うな?」
「鶏だからあっさりしてるし、揚げたんだよ。出来立てはまあまあだったけど…今日になったらイマイチだろ?」
「いや、コンビニで買う安物のカツサンドのカツに比べたら断然いい。あれあんま好きじゃないけど、肉食いたいから食べてんだ。あれよりこっちがいい」
「ふーん、そうか」
まあ一応は手作りだから、って事か。
「て言うかさ。なんかさっき…」
深山が何か言いかけたところで、購買部へ買い出しに行っていた数人が戻って来た。
「遅かったな」
桜が声をかけると、「先輩と会ってちょっと話し込んじゃってさ」と花岡(はなおか)。
「お、美味そうなミートボール」
言うなり、花岡は桜の弁当箱に手を伸ばした。
「おい」
勝手に食べるな、という非難を込めるが、花岡はお構いなし。
「うまっ」
「だろ?味がいいよな」
深山も同調するが、そんなにいいか?
「そうか?ただレシピ通りにやったけだぞ」
「えっ、まさかサクラが作ったのか?!」
「そうだよ。だって俺…」
一人暮らしだし、という桜の声は、「ええええ?!」という数名の友人達の声でかき消された。
「お前、料理上手かったのかよ!」
「いや、まだ始めて一ヶ月だけど」
「一ヶ月ぅ?!たったそんだけで、揚げ物とかできるようになんの?!」
「それは、料理研究部に入って練習してるから…」
「お前、そんな部活に入ってたっけ?!」
大騒ぎする友人達。
彼らがそれを知らないのも、無理はない。
大笑いされると思って、黙っていたのだから。
「料理研究部…女ばっかじゃねぇの?」
「いや、男の先輩がいる。最近、男性の間でも料理教室ブームになってるらしくて、その影響らしい」
「へ~」
「こんなの作れるようになるんだったら、俺も入ろうかな…。兼部でもいいのか?」
花岡が、桜の弁当をジッと見ながらそう言った。
「興味あるなら、聞いといてやるよ」
「マジか?!頼む!」
嬉しそうに桜の肩を抱く花岡に、深山が不思議そうな顔をした。
「お前、料理に興味なんかあったんだ?」
「だって、できたら彼女からのポイント上がりそうじゃん!」
花岡の言葉に、その場にいた全員が頷いた。
「成程、それが狙いなら納得だわ」