葉蘭万丈!
縞衣です。 昨日から、『葉蘭万丈!-第一部-』をエブリスタにて連載開始しました。 estar.jp内容は同じですが、多少の手直しはしております。 二話以降は、今日から毎日21時の更新で一話ずつアップします。 エブリスタは、はてなブログでの公開に比べて少…
「ハラン、どうした?! ジェームズ、医者を呼んで来い!」 オリーヴァの取り乱した声や、はいっ!と大慌てて飛び出して行く物音がして、俺は混乱した。 「ハラン、どうした?! 親父さんならここにいるぞ!」「えっ!」 親父がそこにいる?! 俺の意識は一気に覚…
何だろう、とても気持ちがいい。 少しして、それが誰かの手だと気づく。そっと、優しく、髪を梳くように撫でられている。 誰だろう…? 親父……? 目を開けて確認したいのに、瞼がひどく重く、それさえも億劫だ。「う…」「大丈夫だ、怖くない。親父さんも俺も…
フカフカの布団が気持ちいい。 その割には肌寒くて、掛け布団を探す。 手を動かすと、何かに触れた。 布団ではない。誰かの……腕。 俺は……どこで何をしていた? ハッと目が覚め、飛び起きた。 「なっ…どこだよここ!」 布団だと思っていたのは、フカフカの苔…
「ごめん親父…」 ガクリと力の抜けた親父を肩に担ぎ、風呂場を出る。 いったん親父を布団の上に寝かすと、服を着た。有り金を全部ビニールケースに入れて上着の内ポケットにねじ込むと、親父を負ぶって外に出る。 雨は相変わらず降っているが、だいぶ勢いが…
「お前は家を出ろ」 再度俺の頬を叩いた親父は、先程とは逆の耳に顔を近づけそう言った。「酷い雨で連中も参ってる。用事で出かけるフリをして駅まで行け。できるだけ遠くまで行って、警察に逃げ込むんだ。親の事を聞かれたら、いないと言え」「なっ…」「俺…
今日も雨が酷くて、工事が中止になった。 おかげで、思いがけず休みができた。秋の長雨に助けられている。 俺は朝から機嫌良く買い物に出かけた。雨が酷くても、お構いなし。長靴を履いて傘を差して、雨が傘を打つ音をBGMに、近くのスーパーへ向かった。 高…
年末年始は、どこも忙しい。 が、うちの場合は少し違う。 俺は主に工事現場で働いているが、年末年始は仕事が休みになるからだ。 だからその頃は、少しだけ気持ち的にものんびりする。 工事現場の同僚たちには年始の挨拶もメールで済ませてしまうし(ちなみ…
コンビニで酒を買った。 いつもはこの時間、仕事をしている。 睡眠時間は、平均一日三時間。 それ以外は、主に仕事。 昼間は工事現場で働き、夜は夜間工事やガードマンの仕事をする。 中学の時から、年齢を誤魔化して働いていた。 クビにならないように、必…
「酒買って来い!」 怒鳴り声と共に、床にビール缶を叩きつける音が響く。「さっさと行けこの野郎が!」 尻を思いっ切り蹴りつけられた。 親父の酒癖の悪さは、昔からだ。妻である母親は、とっくの昔に逃げ出した。息子の俺を置いて。 もう十年も前の話だ。 …
母親は、十年前に出て行った。以来、俺は借金まみれで酒癖の悪い親父と二人暮らしだ。学校にも行かずに毎日働く日々だが、ある日突然、親父が「家を出て行け」と言い出した事を皮切りに、俺の知らなかった事実が判明して…。葉蘭(はらん)の、波乱万丈な人生…