晴夏の悩み(晴夏さんの日常1) 桜田桜の日常スピンオフ
葛晴夏には、悩みがある。
文武両道で容姿端麗、時には完璧と評される彼女だが、晴夏自身は、そんな事はちっとも思っていなかった。
ただ、人より少し勉強が好きで、人より少し運動も好きだというだけ。
体力があるのは血筋だし、細身なのもそうだ。
顔だって毎日見ているから見慣れているし、むしろ兄とそっくりだと言われるからあまり好きではなかった。
強気で勝気だとよく言われるけれど、それは兄達に囲まれて育ったせいで、気弱な性格では食べ物も確保できないような状況にあったからというだけの事。
食事時は戦争だった。おやつだって、確保して名前を書いておいても食べられる事がしばしば。その度に大ゲンカしていれば、たくましくなって当然ではないだろうか。
両親や祖父母から聞いた話によると、うんと小さい頃は大人しかったらしいから、元の性格がうんぬんではなく、育った環境が大いに影響しているのだと晴夏は自己分析している。
さて、そんな晴夏の悩みとは一体何か。
それは、初恋がまだだという事だった。
たくさんの兄に囲まれて育ったせいか、晴夏は男子を異性だとは思えず、親しくなっても、ただの友人だとしか思えない。
だからと言って女の子が好きという訳でもなく、たまに「好きなタイプは?」と聞かれると、晴夏は決まって答えに窮してしまう。
中学時代は、まだまだ若いし恋なんてしなくても生きていけるさ、と自分に言い聞かせていた。
が、高校生になり、学年が上がっていくにつれ、どんどん焦りのようなものが生じてきた。
友人達にも恋人ができ始め、うまくいっているカップルを目にしたせいもあるのかもしれないが、何よりも一番の原因は、家族にあった。
祖父曰く、葛家は代々結婚が早く、夫婦仲も良好で子だくさん。その理由は、「これだと思う相手を一瞬で見抜く眼力があり、見定めた相手を決して逃さない手腕があるから」だそうだが、晴夏はそれを聞くたびうんざりした気持ちになるのだ。
恋の一つもまだなのは、相手を見抜く眼力がないからだと言われているみたいだから。
しかし焦ったところでいい相手など見つかるはずもなく、三年生に上がる頃には、晴夏は早くも諦めていた。
(物事に例外はつきものだし、私一人くらい、相手がいなくてもいいじゃないか)
晴夏がそんな事を思うのは、既婚者である姉や兄達が、中学や高校時代に付き合い始めた相手と結婚しているからだ。
それが晴夏のプレッシャーになっている。
さらに、家族が晴夏に直接「恋人はまだできないのか」と問わない事も、無言の威圧のように思われた。
しかし実際のところ、晴夏があまりに異性に興味を示さないので、家族はただ諦めているだけだった。
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縞衣です。
このお話は『桜田桜の日常』のスピンオフ作品として書き始めました。
更新不定期ですが、こちらも楽しんで頂けましたら嬉しいです。
よろしくお願いします!