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縞衣の小説ブログ

縞衣(しまころも)の創作小説サイトです。3作品連載中。

うぶで乙女チック(桜田桜の日常23)

 挨拶が終わると、花岡がツンと桜の腕を突いてきた。

「ん?」

「布巾当番って?」

「使った布巾を集めて洗う当番だよ。台拭きは手洗いしてそれぞれ台についてる布巾掛けに掛けるけど、食器用の布巾は、それぞれのグループに用意された専用のバケツに入れるんだ。それをまとめて洗濯室で洗うのが、布巾当番」

「洗濯室なんてあったっけ?」

「あるよ、準備室の隣に。洗濯機はいくつかあるけど、一番手前のやつが布巾用な。スピードモードだったら十五分くらいで脱水まで終わるから、干して桶洗ってしまったら終わり」

「結構大変だな。一人でやんの?」

「うん。全員、順番で。洗濯機回してる間にバケツ洗って拭いてしまえばいいから、そこまで大変でもないよ。布巾は手洗いする訳じゃないし」

「ふーん」

 

「それよりご飯食べるだろ。冷めちゃったけど、レンジあるから。あっ、でも味噌汁はこれレンジにかけていいのか…?お椀が」

「そのお椀はレンジ対応だからOKだよ」

 晴夏がやって来て、桜を見るとにっこりした。

 

「あ…お話って何ですか?」

 残って話をしたいと言われていた事を思い出し、桜は晴夏の顔をわずかに見上げる。

「ん?桜と一緒に帰ろうかと思って」

「え?!」

「なんでそんなに驚くの?恋人同士だしいいでしょ?」

 晴夏はいとも簡単に『恋人』と口にするが、桜は恥ずかしくて話題を逸らす。

 

「そ、そう言えば先輩の家ってどこですか?」

「徒歩五分くらいの、歯医者のとこ」

 桜は、知りうる限りの近辺の地図を思い浮かべた…が、歯医者がどこにあるのか知らない。桜のアパートは徒歩十分だが、通り道にはなかったはずだ。きっと方角が違うのだろう。

「――すみません分からないです」

「桜の住んでるアパートは、近くなんだよね?住所はどこ?」

 桜が住所を言うと、晴夏は「ああ」と頷いた。

 

「あの辺か。古いアパートと新しいアパートどっち?」

「古いアパートです」

「あれ、結構古いよね?新しいのは2・3年くらい前に建ったんだけど、古いのは最低でも30年以上は経つって聞いてる」

「築40年って言ってました。新しいアパートができて入居者が激減したおかげで、月2万で借りれたんです。先輩の家は近くですか?」

「そうだね。桜のアパートは、フレッシュ館を通り過ぎて三本目の道を入るだろ?」

「えっと――はい」

 桜は頭の中に場所を思い浮かべ、何本目か数えてから答える。

 

「私の家は、一本目の道を曲がって少し行った所だよ」

「えっ、じゃあここからほんとにすぐじゃないですか!」

「うん、だからここに進学したんだ」

 頷く晴夏に、桜は興奮気味で言った。

「いいですね!フレッシュ館の近くで、買い物がすごい楽!」

「ははっ、主婦みたいなこと言うね。桜のアパートまでは少し歩かないといけないし、お米を買ったりした時は少し大変だもんね」

「そうなんです。だから、カートを買おうか悩んでて…」

 桜の言葉に、料理を温め終えて食事していた花岡が、ぐふっと変な音を出した。

 見ると、リスのように口を膨らませて片手で押さえ、小刻みに震えている。

 

「あはははは!」

 口の中のものを飲み込むなり、花岡は大声で笑い出す。

「え、何?」

「だってカートって、うちのばあちゃん思い出して…!」

 大笑いする花岡に、桜はムッとする。

 

「買い物って結構大変なんだぞ!荷物多いと重いし、トイレットペーパーとか買ったらかさばって手がふさがるから、カートがあれば便利だと思って…!」

「なんで自転車じゃねぇの?」

「だって自転車は万するだろ!カートなら数千円で買えるし!」

「――そういう事か。ごめん」

「あ、いや…俺こそおっきい声出してごめん」

「や、謝る程の事じゃないし」

「俺も、別に怒った訳じゃないから」

「知ってるよ。ちょっと力入っちゃっただけだよな?分かってるよ」

 花岡から穏やかな声でそう言われ、桜の頬がうっすらと赤くなった。

 そんな桜を晴夏がじっと見つめていたが、桜はその視線には気づかず、頬に手を当てる。熱くなって、つい無意識のうちに手が伸びるのだ。

 花岡の優しい言い方は、完全に…年下扱いしてきている気がする。

 でも不思議と嫌な気はしないし、ああして気遣われるとなんだか照れくさいしちょっと恥ずかしい。

 

 ふーっと息を吐く桜に、晴夏がすっと近づいてきた。

「?」

 どうしたんだろ?と見上げる桜の頬に、晴夏がそっと手を伸ばす。

 少し身構えた桜の頬に、長い指が触れた。

「桜…」

「せ、先輩っ…」

 晴夏の雰囲気が急に色っぽいものへと変わり、桜はうろたえる。

 花岡が咳払いしたのと、「何やってるんですか」という声が掛かったのは同時だった。

 

「セクハラ部長、うぶな男の子に学校で迫るのはやめて下さい」

 ピシリと言い放ったのは、ツカツカと歩み寄ってきた副部長の凛子だ。

「やだなぁ、凛子君。迫ってなんかいないよ。ほんのちょっぴり、見つめ合っただけじゃないか」

「そうですか?意味ありげに名前を呼んで、ほっぺまで触ってた人がよく言いますね。花岡君も見たでしょう?」

「そうですね。誰もいなかったら抱き付いてチューしそうでした」

「私の目にもそう見えたわ」

 二人は初対面のはずなのに絶妙のコンビネーションで晴夏を攻めるが、彼女は全く堪える様子がない。

「分かった、これからは気をつけるよ。桜を見つめるのは家でにするから」

「えっ…」

 家、という言葉に桜はドキッとした。

 

(家って…誰の家で?俺の部屋…?)

 付き合い始めたのだし、家に遊びに行く事だってあるだろう。

 だがそれは、お互いに家族が家にいる場合の話、かもしれない。

 一人暮らしの家で彼女と二人きりなんて…考えただけでドキドキして恥ずかしいし、どうしても他のところに頭がいってしまう。年ごろの男の子なのだから、それは至って普通なのだろうが、しかし桜は慌てて頭を振る。

(わわわわっ…。ダメだよそれはっ…)

 まだ付き合い始めたばかりだし、そもそも桜は、高校生のうちにエッチな事をするのは良くないのではと考える真面目な子だ。

 

 首まで赤くして両頬に手を当てる桜を見て、花岡がこっそりと晴夏に言った。

「良かったですね、先輩。サクラがえっちぃこと考えてますよ」

「そんな事、君に言われなくても分かってるよ。ふふ、あんなに首まで赤くなるなんて、今時小学生でもないんじゃない?うちの甥っ子達よりはるかにうぶだね」

「達って、そんなにいるんですか?」

「10人以上いるよ」

「多っ!」

「全員と一緒に暮らしてる訳じゃないけどね。小2の甥っ子なんかすごくませてて、この間なんか『彼女とちゅーした!』とか言ってたよ。『晴夏姉よりファーストキス早ーい』とか自慢してさ。まだろくに育ってもいないくせにマセガキめ」

「――先輩って、マジで男っぽいですね。今の発言、サクラが聞いたらビックリしますよ」

「桜は乙女チックだもんねぇ。ほっぺに手当てるのって、女の子の仕草じゃない?」

「ま、サクラがやる分には違和感ないからいいですけどね。俺がやったら多分めちゃくちゃ違和感ありますよ」

「聞いただけで鳥肌が立つからやめろ」

「ははは」

 

 すぐそばでそんな会話がされている事も知らず、桜はどうにか熱を冷まそうと両手でパタパタと顔に風を送るのだった。

 

24.職員会議

22.花岡初参加

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